以前、フランス香水業界でトップの座にあるシャネルの三代目の“nez”(フランス語で「鼻」の意味で調香師のことをこう呼びます)であるジャック・ポルジュ氏にインタビューをした時、日本人とフランス人の香水との付きあい方のちがいについて、つい話し込んでしまったことがありました。
フランス人の女性は、「自分を香りで表現したらどんな香りになるだろうか」という探究心が強く、靴選びへの情熱と同様、香り選びに気を使うそうです。
彼女たちは香りと何のためらいもないほどなじみ、そしてすき間を作らず自分の肌と一体になるように香水と付きあいます。
それは肌に丹念につけるということではなく、日常茶飯事的に香りにお世話になるということなのです。
それに比べて日本の女性は、ハンカチにつけたり、服につけたり、お香をたいたり、バスタブに入れたりと、香りを間接的に楽しむほうが得意なように思えます。
ポルジュ氏に、そうした日本女性と香りの付きあいについて説明すると、「それはエレガントな方法だと思う」と、うなずいて聞いてくださいました。

思い返してみると、私にとって初めての香りは、十八歳のときにパリの「オー・トロワ・カルティエ」という高級デパートで買ったキャロンの「石の花(Fleurderocaille)」でした。
すがすがしい花の香りで、控え目なところが気に入って選びました。
それから三十五歳の頃、アメリカに何度も渡っては、「もっと前進しなければ」といった意欲に燃えていた頃、ロスのロデオ・ドライヴにあるジョルジオというお店で見つけた甘い香りのする「ジョルジオ」に切り替えました。

その後、もっと内面を豊かにしなくてはと思い始めた四十歳になってたどり着いた香水はゲランの「ミツコ」でした。
この香りは、女性的ななかに、深い奥ゆかしさと精神的豊かさと芯の強さを持っているところが魅力でした。
「その後はすでに語ったとおり、植物性の自然素材、つまりエッセンシャルオイルに惹かれるようになりました。
エッセンシャルオイルの世界は奥が深く、さまざなな新しいことを知ることができます。
例えば、古代エジプト人が身体のつける部分によってエッセンシャルオイルの種類を変えていたことなど。
ウエストまわりはジャスミン、首はクラリセージ、脚はパチュリーといった具合に。
おかげで今日では、わが家の冷蔵庫のドアの裏にはあらゆる種類のエッセンシャルオイルが並べられているのです。
そうしたエッセンシャルオイルを自らスポイトを用いてブレンドして、ひざ、ひじの関節や、手首、首のつけね、バスト、腿、ウエストなどの関節の部分につけたりしているのです。

シャネル45

しかし、おしゃれをして外出する時などに時々登場するのが「シャネル45」です。
これは、シャネル女史が「女性の匂いのする女性のための香水を創ってほしいの」とロシアから亡命してきた調香師のエルネスト・ボー氏に依頼して作らせた香りでした。
人工的な香料の多い今日、グラースのジャスミンを用いて作っているという希少価値のあるものです。
それからモダンな装いのときは気分を切り換えて「アリュール・オード・パルファム」をつけます。
エッセンシャルローズオイルは、バスタブに一滴たらすと、かぐわしいバスタイムが過ごせますし、枕に一滴たらすと、良質な眠りにつくことができます。
香りを日常的に取り入れるきっかけは、こんなふうにしてつくられるのです。

さらに、「人間の鼻は、だんだん香りに鈍感になるので、香水をつける量が、年齢を重ねるごとに多くなっていく」ときいたことがあります。
「パリでも東京でも、完璧におしゃれをしている女性が昼間から甘ったるい香水をつけて歩いていて、周囲の人がその香りの強烈さに耐えきれずに思わず鼻をおさえているのを知らないのは本人だけという場面を何度見たことでしょうか。
昼間はグリーンの香りや柑橘系の香り、夜は甘いローズやジャスミンなどのフローラル系といった暗黙のマナーも忘れ去られてきているようです。
香りを日常的に取り入れるということは、濃い香りをつけて自分の歩くあとを香りで刻むといった外に向かうものではなく、自分自身の生活を淡い香りのヴェールでふんわり包み込み、内面を豊かにさせるということだと思うのです。

バラの香り

私が最近、特に夢中になっているのがバラの香りです。
といってもよくある人工の香りでなく、本当のバラの花びらから抽出したローズウォーターとローズオイルです。
あまりにも熱中してとうとうシリアや、トルコやフランスにバラを探す旅に出かけたほどです。
これらの土地では、ローズウォーターやローズオイルは香りのためだけでなく、肌の美容のためにも用いられているのです。
ローズウォーターや、ローズオイルの香りに包まれた家のなかで、どのようにしたら、肌がバラのもつみずみずしさやハリを吸収してくれるのか目下、研究に励んでいるとこでした。
「これはバラの香りではないですか」と。
すぐさま、同僚に男のくせに香りに詳しいとからかわれていましたが。
しかし、彼が人工の香りでなくそれが本物のバラの香りだとわかったことにはとても嬉しい気持ちになりました。
バラの香りは、それを嗅ぐだけで、イライラを解消し、ストレスを軽減させますから、美容的にもとても効果のあるものなのです。
だからこそ、私はバラの花びらの香りとオイルと抽出液からできた真の美容液が作れたらと奮闘中なのです。